ダウンロード違法化について思うこと (3):言論の自由との関係

本題に入る前に。2ch からの津田さんスレッドの抜粋を見て、もしかしてうまく丸め込まれてないかと心配になった。
ダウンロード違法化がほぼ決まったけど何か質問ある?【働くモノニュース : 人生VIP職人ブログwww】

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DLの場合、そもそも警察にばれるということが考えにくい。刑事罰はないので現状はDLだけなら逮捕はされない。ただし、民事の損害賠償の対象にはなるので、逮捕はされないけどブログとかで「違法着うたダウンロードしまくりwww」とか書いてて、かつそれが証明されたら、民事訴訟される可能性はゼロじゃないけど、日本の司法制度とか権利者が米国ほど強硬手段には出ないということを考えると、限りなくリスクは低いだろうとは思う。

刑事訴訟法と刑事訴訟規則をざっと見てみたけど、刑事罰がないなら逮捕されないとは書いてないようだった。それに思想の自由との関連からは、逮捕だけでなく捜索と押収が問題になるので、もし逮捕されないことになっていても、問題はやっぱり大きい。

それと、日本が米国化しているのは、まさにこの著作権強化の一件を見ても明らかなので、これからもリスクが低いと考えるのは甘いんじゃないかな、と思う。まあ民事訴訟ならお金だけの話なので、私はあまり問題にしない。問題にしてるのは、公権力の介入のほう。

でも津田さん頑張ってくれてありがとう。感謝です。

さて本題の、言論の自由との関係。

言論の自由が保障されなければいけない大きな理由のひとつは、何か批判されるべき事柄があったときに、それを批判できるようにすること。権力者に対してこれができないと民主主義は機能しないし、普通の人に対してもこれをお互いにすることでよりよい生き方を追求するわけだ。もちろん、お互いの権利を侵さない範囲で。

ここで、動画のダウンロードが違法化された状況を考えてみる。

私が仮に、自分の利益のために、完全に事実を誤認したプロパガンダ番組を作って、ネットでストリーミング配信したとする。それを大勢の人が見て信じたけど、一部の人が誤りに気づいた。でも、ダウンロードが違法ならば、誤りに気づいた人はその番組を批判することができないよね。私はもちろんそんなことされたくないから、元データは絶対に出さない。誤った知識だけが世の中に広く残る。「私」をマスコミに置き換えてみると問題の大きさがわかると思う。

同じ状況で、政府が自分に都合がいいプロパガンダ番組を民間の放送会社に作らせて、ストリーミング配信させたとする。著作権は放送会社にあるとする。やっぱり批判したい人は批判できない。政府が放送会社よりも強い立場にあれば、親告罪だとしても、放送会社に告発させることができる。

言論の自由が、批判を通じて、正しく役に立つ情報を皆が手に入れ、よりよい政府を選び、自分たちも幸福を追求する、ということをめざしているのに、ダウンロードを違法化すると、そこに著作権という壁が立ちはだかってしまう。

まだある。もし、ある放送会社がストリーミング配信で、自分の名誉を毀損する映像を流したとする。名誉毀損は刑法に触れるから、私は告発したい。でも、ダウンロードは違法だし、もしそれでもダウンロードして裁判所に持って行っても、違法に入手したものに証拠能力は認められないから、証拠にならない。それまでに放送会社が元データを消してしまったら……どうやって名誉毀損を証明すればいいんだろう。(まあ名誉毀損自由権とは直接関係ないけれど)

私は、憲法にうたわれている思想の自由、言論の自由表現の自由は、次のことを暗に前提としていると思う:人は自分が触れた情報を取得し保持する権利がある。人間の頭には限りがあるし、批判をする場合には対象を挙げなければいけないので、対象物を何らかの形でとっておかなければ実際には批判などできない。批判が正確にできないし、言った言わないの水掛け論になったりしそうだし。

では違法にアップロードされたものをダウンロードする権利があるのか、という問いが来そうだけど、それはやっぱりあると思う。比較でいうと、違法な方法で取材された記事が新聞に載ったときに、その記事を切り取って自分のスクラップブックに貼る権利はあるか。あるよね。あると思う理由はまず、元が違法かを確かめる義務を情報の受け手に課すのはやりすぎだということ。でももっと大事な理由は、言論の自由ってのはそれほどまでに大事な基本的人権なんだってこと。著作権という、人権よりも弱い権利、しかもその利益のための行使によって、言論の自由が制限されてはいけないと思うのだ。

そう考えると、著作権法で「私的複製」が認められていることに、積極的な理由を与えることができる。多分普通は、私的複製ぐらいなら著作権者の利益をそれほど損なわないからいいか、ぐらいの意味に取られるだろうし、立法時にもそう考えたんだろうと思う。でも、上の見方をすれば、つまり触れた情報の取得と保持の権利が基本的人権に含まれると考えるなら、この私的複製の条項は基本的人権を侵害しないためと考えることができる。

やっぱりダウンロード違法化は、著作権を拡大することで基本的人権を制限することに見えて仕方がない。お金の問題を刑罰法規で解決しようとするからこういうおかしなことになるんじゃないのかな。