民主党案について

ネット規制法に於ける議論の前提と、民主党案の講評 - 雑種路線でいこう

民主党案では「義務」と「努力義務」を明確に分けていますから、「義務」の方に罰則がつくのではないかと思います。これは民主党に聞けば分かることで、議論するようなことではありませんが。

内容、まず手段について。

この法案は、PCを使う子供に有害情報を閲覧させないための手段が

  • ISPによるフィルタリング
  • ユーザPCにおけるフィルタリング

のふたつしかないことを仮定しています。これは技術的におかしくて、現状でも第三者プロキシサーバによるフィルタリングが可能ですし、将来どのようなフィルタリングが可能になるかは分かりません。この立法がなされた後、第3第4のフィルタリング手法が可能になったとしても、法律による義務は(法改正をしない限り)有効です。無意味な規制が残ることになります。

この法案では、PCメーカーに、子ども用フィルタリングソフトウェアのプレインストール義務が課されます。これは、PCハードウェアだけを作って売ることが許されないことを意味します。

やってみなければ分からないというのはおっしゃる通りです。が、一度立法をすると、社会はそれに合わせて動きます。この法案が通れば、フィルタリングは必須のものになり、その方法はISPによるものかユーザPCによるものになります。ユーザPC用フィルタリングソフトウェア開発の競争が起こるかも知れません。ですが、そのふたつ以外のフィルタリング手法の開発は進まないでしょう。ソフトなしで組み立てPCを売るショップはどうしましょうか。

それでも万が一、誰か奇特な人間が第3の手法を開発し、それがとても有効だったとします。そのとき、この法律は改正できるでしょうか。多分できないと思います。それまでに、社会がその法律に過剰適応し、多くの既得権益ができているでしょうから。

だから、やってみるのはいいけれど、やってどうなるかよく分からないなら段階的でなくてはいけないと思うのです。

この法案は、技術的なことを理解していないがゆえに、階段を飛ばしすぎていて、しかも技術発展を阻害するように思います。

次に目的や考え方について。

「有害情報」を定義するには、何が有害かの判断基準を定めなければなりません。この判断基準は、個人によって違うものです。個人が自分の判断基準に従って情報を発信する権利が表現の自由なので、フィルタリングは情報の発信を阻害してはいけない。だからネットにおけるフィルタリングは、自分の子供が得る情報を親がコントロールする手段という位置づけにならざるを得ません。(最新のエントリーで楠さんがお書きになっていますね。)つまり、ある情報が有害かどうかは、その子供の親が決めるべきです。

民主党案ではこれについて問題があります。まず、人によって異なるはずの「有害情報」を勝手に例示していること。「子ども用フィルタリングソフトウェアの開発を行う事業者の努力義務」の項は、市場に任せるべきものだと思います。そしてそれに基づいて、サイト管理者に(そのような情報が子供に閲覧されないようにする)努力義務を与えていること。公権力が、特定の価値観に基づいて、表現の自由を制限することになります。努力義務ならいいと言うものではありません。

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結局のところこのスキームは、政府による検閲を形式上は民民規制にしているだけで、発想の出発点から間違えている。

私もそう思います。このエントリについては概ね同意します。

民主党の法案も、出発点から間違ってると思います。民主党案は、一般人が持つ「子供を有害情報に触れさせたくない」という願いに迎合した法案だと思います。どのような情報が有害かは公権力が定めてはいけないし、どの特定の価値観に基づいても表現を規制してはいけない。それは、有権者がいくら望んでも、ダメなんです。それは多数決で決めてはいけないこと。

で、公権力が特定の価値観を強制せず、表現の自由の侵害をせず、子供を守りたい親の希望を叶えるにはどうしたらいいか、と考えたのが、前に私が示した案です。

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民主党が立法しかできないなら、それでもできることがあります。ここ↑に書いた親への勧告の義務化。それから、官製フィルタリングサービス法人の設置法。

本当に喫緊の課題だと思ってるのなら、法律を作るよりも、有効なフィルタリングサービスをとっとと立ち上げればいいんですよ。すでに商用フィルタリングサービスがある現状でこれをやることの困難は承知しています。できれば市場に任せたいと思う。差別的フィルタリングの問題だって、市場がうまく働けば解決しやすい*1。国は、標準を定めるぐらいのところまでが本来の役割でしょう。でも、政治の不作為はいかんということで、政府や立法機関が状況を動かすために積極的に介入する必要があると見るならば、特定のフィルタリング方式の利用を法律で定めて技術発展を阻害するよりも、国が1プレーヤーとして市場に参加する方が害が少ないように思います。

私もプレーヤーになるべく、フィルタリングシステムの開発を始めました。

*1:この点ではISPによるフィルタリングを義務づけるのは逆効果だと思います。多様な価値観に対応するフィルタリングサービスを提供するのは容易でないから。ユーザが自分好みのフィルタリングサービスISP外から選べるようにならないと解決しないと思います。