児童ポルノ問題の落としどころ(案)

児童ポルノ問題。これまでのエントリで、単純所持の処罰には問題が多いことを見た。

考えてみると、単純所持を検挙するより、提供や頒布を検挙する方が楽である。誰が所持しているかなんて見えないから。てことは、処罰の不安から児童ポルノを廃棄するだろうという期待で、単純所持処罰をしようとしているのだろう。

でもこれはきっとうまくいかない。スピード違反運転の現状を見ればわかる。守れもしないし検挙もできないところに線を引くと、皆が少しずつ法を犯した状態になる。パトカーでさえも! 結局、被写体の権利など守られず、警察が恣意的に検挙できるようになるだけだ。

単純所持を処罰すると、提供者を検挙することも難しくなる。何かのはずみで児童ポルノを入手してしまった人は、警察に通報しないだろう。破棄したつもりでもどこかに残っていたら犯罪者扱いをされる恐れがあるから。

というわけで、単純所持処罰はなしにして、頒布者提供者をうまく見つけて警察が検挙しやすいような手を考えてみよう。

他人を写した写真や映像を公開するのは肖像権の侵害である。肖像権侵害は全て処罰していいか。そんなことはない。そんなことをしたら報道や研究などに支障が出るだろう。

そこで、猥褻な写真や映像を撮影し、他者に提供することが、被写体の重大な権利侵害であるとしてみる。そして、それを処罰することにする。

ここで対象を児童に限ってしまうから問題が生じるのだと思う。写真や映像からは年齢はわからないので、取り締まるべきときに取り締まることができない恐れがある。かと言って年齢の判断を曖昧(「児童に見えるなら」など)にすると、構成要件がはっきりせず、罪刑法定主義の観点から問題になる。

考えてみると、この手の重大な肖像権侵害の問題を児童に限る理由はない。成人にだって肖像権はあるし、子供の頃のポルノ写真よりも大人になってからのもの方が、例えば脅迫に使われるなどすると問題が大きい。

年齢による区別をしなければ、取締りも容易である。

さて、猥褻の基準でほぼ世の中で合意があるのは、刑法175条(猥褻物頒布などの罪)の解釈についてである。つまり、性器の描写や、性交の描写はよろしくない、ということだ。重大な肖像権侵害の基準にこれを利用すれば、猥褻の解釈に関して問題は起こりにくいであろう。

こうすると現行児ポ法の「児童ポルノ」の定義↓に比べて、児童ポルノの範囲が少し狭くなる。

一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

一と二は性器の描写と性行為の描写なので、これでいいだろう。(が、「類似」だの「係る」だので処罰するなと言いたい。)三は上の基準ではカバーできない。三の条件は社会的に合意がないので、罪の構成要件にするのは危険であると思うし、それ以前にこの項の表すものが児童の肖像権を侵害するとは思えない。

というか、被写体の権利侵害を規定するのに、なぜ他人の性欲を興奮させ又は刺激するという条件が出てくるのか、私には理解できない。性的に全然魅力がない貧弱な体つきの人の裸体写真の頒布は権利侵害にならないとでも言うのか。あほらし。

というわけで、代わりにこのような法律を作ってはどうか。

  • 他人の猥褻な写真や画像を提供することを禁止する。猥褻の基準は性器の描写あるいは性行為の描写、ただし年齢は問わない。
  • ただし被写体(18歳未満の場合は、保護者)の同意がある場合はこの限りでない。
  • そして、同意があったことを示す義務は、提供者に負わせる。

警察が、提供の事実だけで提供者に尋問できれば、取り締まりやすいだろう。

刑法175条との関係がちょっと複雑だが、こうなるはずだ。

  • 刑法175条は社会に対する影響を防ぐためのもので、対象は頒布、販売、公然陳列である。子供の裸体の単なる描写は、社会に対する悪影響とは一般には見なされない。
  • この法律は被写体となった人への害を防ぐためのもので、対象は提供(頒布、販売、陳列を含む)である。対象は全年齢である。

場合によっては両方を犯す場合があるのがちょっと気持ち悪いけど、児童をきっちり判定できないのに単純所持処罰などというよりはましな刑罰法規だと思う。どうだろうか。

うまくいったばあいの状況。エロ写真やエロビデオには必ず出演者の同意書のようなものがつく。ついていなければ他人に渡すことができない。盗撮ものはそういうものが絶対につかないから、提供者を即検挙できる。ま、警察が頑張らないと、どんな法律を作ったところで意味ないけどさ。

これ考えていて思った。児童ポルノの「氾濫」の原因となっている行為の多くは、刑法175条違反ではないだろうか? つまり猥褻物の多数への頒布ではないだろうか? もしそうであって、警察がそれを止められないのなら、法律を強化してもしょうがないのでは。

やはり警察のサイバー部門を強化して、多数への児童ポルノ頒布やP2Pファイル共有を見張るべきだと思う。この状況で、立法で何とかなると本気で思っているとしたら、現実を見ていないような気がする。